力のチカラ

 理想的とも言えるかも知れない。7月でアルバイトを辞めてから売れない古本屋の店番だけで一日が終わる日常になった。朝早いアルバイトでは午後は眠くなり、おまけに一日が長いので身体はかなり疲れていた。今も朝は早く起きる習慣は続いているが、店では本を読む余裕が出来た。今の悩みは本が売れないことと良い本に巡り合わないことだが、それでも本を読みながらゆっくりとした時間を過ごすことと引き換えなので仕方ないことなのかも知れない。

 日曜日の新聞には各紙本の書評が掲載されている。新刊本の紹介なので、仕事を辞めた今そうそう買うことも出来ないので記事を読むだけだ。面白そうな紹介文があれば切り取っておいてリストを作っている。これは拾った週刊誌の書評欄も同様である。その内に古本屋に出回ってくるようになり、安く手に入るようになったら買えばいいと思っている。実際そうして何冊かは買っている。今となっては急ぐ理由も時間も必要ない。読む本は余っている。

 これらの本の紹介記事はこれでなかなか独特の文章力が必要で、つい今すぐにでも買って読みたくなる気にさせるものもあれば途中で興味を失わせるものもある。著者が喜ぶようなことも入れてみたりと色々工夫されている。最終的には売れなくては困る訳で、できれば早い段階で古本屋にまで回ってくるのが望ましい。

 最近の文で気に入ったのは、沖縄で「市場の古本屋ウララ」という店をやっている宇田智子さんの文章で、「本が一冊売れるたびに、やっぱり本には力があるのだと信じたくなる」というものだった。紹介しているのは「ハーレムの闘う本屋・ルイズ・ミショーの生涯」という本である。これはまだまだ値段が下がらないようだ。もう一つは毎日新聞のインタビュー記事で、中澤雄大という署名入りで「評伝石川啄木」を紹介している。見出しが「日記が持つ肉声の力」。日記文学を評価しつつ、事実を書きたいという著者の言葉を引き出している。落ちは、「記憶力が自慢で自分の日記はつけなかった」で、「年をとって忘れることを覚えました」という締めである。この二つの「力」は上手いなと思う。