腐る本

書評やブックレビューを見て読んでみたい本を調べては、リストを作成している。古本屋で見つければ買うのだが、なかなかそう簡単には見つからないのが普通だ。この本も何かの欄で見てリストに入れておいたものである。ネットでも調べたがあまり安くならないので、そのうち見つかるかもしれないと思っていたら、先日、近所の古本チェーン店で偶然に棚にあるのに気がついた。やはりかなり高額だったが、こんな所で見つかるとは思っていなかったので購入した。探せば出てくるものだと納得して少し読み始めたら、どうも読んだ記憶がある。読み進むうちに完全に思い出した。これは読んでから店に置いて売れたものではないか、もしかしたら記憶違いで自分が古本チェーン店に売ったものかも知れない。それがいまや本の帯も取れた状態で、かなり高く買ってしまったということではないか。こんなことを実は結構経験しているので本当にがっかりしてしまった。しかし、まだ読んだ内容を覚えていただけ立派なもので、読んだことも忘れて同じ本を繰り返して読んでいるのかも知れない。時間がない、本が読めないと嘆いているのに全く恐ろしい話である。

  さて、この本の著者は、田舎の辺境の土地で天然酵母のパンづくりをする若い夫婦、本物の生活を目指して利潤を産まない店を始めるのである。週の半分しか働かない、一年の一カ月は休みを取る、高いパンを売り、マルクスを読み、腐る経済を論じる。おかしい変な人である。でも実に面白い。まず読みやすいというのが良い。自分の生活をわかりやすく描いている。現代人によくある定職に就かないで自分のやりたいことを追及して飽きないというパターンだが、でもきちんと結婚して、子供もいて、仕事もして、仲間もいて、生活しているのだからいいのかもしれないと思う。私が勤めていた前の会社の若い上司はまったくこれと同じで、やはり会社を辞めて、今は農業をやっているのかも知れない。実は中に書かれているような生活は自分でも経験してきたし、周囲にも同様の人がいて、そういう生活をめざす若い人も知っている。だから共感できる部分が多く読みやすいのかも知れない。残念なのはずっと先まで見ていられないことだけ、頑張ってパン屋で革命を起こしてもらいたい。