捏造

 本は新刊で買っておかないと書店の棚からすぐに無くなってしまう。あとは古本屋で探すかネットで検索するしかない。この本もそう思って買っておいたものだが、今はどこでも安く買うことが出来るようだ。事実先日も古本チェーン店で見かけた。買ってはいたのだがマスコミ報道が多く、内容も知ってしまったので読まずに置いていた。そのうちにもう読まなくてもいいかと思い処分しようとしたが、その前に読んでみようと思い直した。 一年前のことなのに妙に懐かしい感じで事件を振り返るように読んだ。誰もが知っているだろうと思うSTAP細胞発見の顛末である。この報道の前にはiPS細胞の発見が大々的に報道された。日本の科学力はすごいと思いながら、STAP細胞の可能性はかなり展望があるのではないかと報道からは期待した。それが二カ月もしたらまるでスキャンダル事件のように伝えられるようになり、割烹着を着た女性研究者は犯罪者のようになってしまった。そして妙に懐かしいと感じるのは日々マスコミの報道が色々なことを教えてくれるからかもしれない。そう言えばオリンピックのエンブレム報道も今では懐かしい。

 

 

著者は毎日新聞の記者で理科学系の同様の本を出している。あとがきを見ると物理学専攻とあり、そのせいか内容も専門的な説明も多く記されている。素人には詳しいことはわからないが、テレビで図解を使って説明されていたので何となく当時の様子が蘇ってくる。かなり取材を進めていたようだが当事者から発表は抑えられていた部分があり、それらを含めて経過がわかるようになっている。だが結局報道以上の真実が出てくる訳ではないので事件のまとめ的な内容である。それでもここまでは必要なことだと思う。ところが最近当事者の科学者の本が出版されている。その本も古本チェーン店に何冊も並んでいた。やはりそれなりに売れて古本屋に売られたのだろう。ついでに読んでみようか。

 当時の感想だが、理化学研究所という組織の構造的な体質がよく見えたような気がした。科学分野のことなどわからないが、記者発表時の様子や研究者の扱いなどが秘密裡に進められ、事件化してからは逆に隠蔽策が講じられたように感じた。結局亡くなった人も出たのだが、科学研究の世界的な信用を傷つけたことなどを含め、組織を守ろうとする姿勢は変わらなかったように思う。同様のケースは世界的にもあるようでこの本に中にもそれは紹介されている。私などが知りたいと思うのは、本当はどういうことだったのかということだけなので、組織の中のことなどどうでもいい。STAP細胞が何だったのかを説明して貰えれば良かっただけで、犯罪者を必要とはしていなかったのだ。不正の内容を語るよりも、安易にすごい発見を捏造する組織を見直して貰いたいと思う。「捏造の科学者」須田桃子(文芸春秋)