敗北を受け止めて

 出席した読書会で書名を知って読んでみようと購入していたが、これも読み終えるまでかなり時間がかかった。上下巻ともかなりの分量があったということもそうだが、内容もぎっしりと詰まっていた。ちょうど読んでいるときに国会で憲法改正の議論がされていたことや周りの人達の話題も当てはまって、読んでは一時休みという感じであった。

 前半では戦後の国内の様子が詳細にまとめられている。日本人の心理的な部分から社会状況まで、何も知らない者にも当時のことが理解できるのではないかと思える。貴重な写真も見られる。ここから戦後日本の発展が始まっていくことになるのだが、ふと考えてみると現代の社会状況が何だか重なって見えるような気がする。戦後の数年間の物が無い時代に餓死者が以上に多かったということが、いま物は溢れている筈なのに生活困窮者が多く発生していることに妙に似ているような気がするのだ。敗北感に包まれて殺伐とした時代と現代は同じ時代になっているような気が。

 後半では憲法のつくられていく過程が書かれているとともに、戦犯とされる人達の裁判の様子がわかる。それぞれの立場からの思惑がかなり詳しく調べられている。写真もよく撮影されていたものだと感心する。戦後の日本の敗北感から経済的な発展を得るまでの道筋が納得できる。全体を通じてよくこれだけの内容を突き放したように冷静に語れるものだと思ったが、それはタイトルに示されているような気持からなのだろう。最後には憲法九条のことも書かれている。今憲法改正のことが話題に上がっているが、そこには戦争の敗北から戦争の放棄という戦後の日本の外交上の姿勢が入っている。努めて冷静に考えなくてはならないと思う。「敗北を抱きしめて」ジョン・ダワー(岩波書店)