東京の車善七は

 今、東京都知事の公私混同的な公費の使い方が話題になっているが、昔の東京を描いた塩見鮮一郎氏の「江戸時代の非人頭・車善七」という本を読んだ。色々な差別問題について書かれたものにも興味があり集めて来た。この本は最近購入したものだが、そのきっかけは白土三平氏の「カムイ伝」である。漫画は現役世代としてそれなりに読んできており、もちろん「カムイ伝」も月刊誌に連載されていた当時からの読者であった。その中に非人が重要な位置で登場してくるのだ。「カムイ伝」は差別問題についても大きなテーマとして取り上げていて、それは作品の最後には大胆な結末をもたらす。そんな仮説を作り上げて大丈夫なのかと心配しても本人は死んでしまっているので反論してくることはないだろう。でもこれが全体の物語を貫く重要なテーマなのである。

 塩見氏は江戸の差別問題について多く書かれており、有名なのは浅草弾左衛門についての本である。江戸時代の身分制度からはみ出した人達のリーダーとしての存在について多くの本が書かれている。士農工商という言葉はよく聞かれるが、そこに入らない芸人などの身分の人達を束ねていたことになる。非人はさらにその支配下に置かれていて、多くが路上生活者であり、そのリーダーが車善七である。車善七についての本はあまり見かけない。多分あまり記録が残っていないのだろう。でもこの層が多くの差別を抱えていたのではないかと想像できる。浅草弾左衛門も車善七も個人の名前であるが代々引き継がれた家柄である。明治になると身分制度が廃止されて非人も認められなくなった。車善七も家系が途絶えている。が、今の東京には多くの路上生活者が溢れている。江戸時代は住民からの様々な要望に対して多くの施策が講じられているが、今の東京はほとんど無策だ。「江戸の非人頭・車善七」塩見鮮一郎(三一新書)