60年代と現代

 漫画を大学の講義に使用するということは今ではそれほど違和感はないかもしれない。白土三平氏の漫画カムイ伝が連載されていた当時は大学紛争が盛んな時期で、ストに参加した学生達が読んでいたということが話題にもなった。その作品をテキストにして現代社会を考えるという講義が行われると言うのも不思議な話である。

 江戸時代の非人についての本から関連して今回読んだのだが、作品の中には江戸時代の身分制度における武士、商人、百姓、そして主人公でもある非人など多くの立場からの人物像が描かれている。江戸時代を背景に、身分制度や差別問題を、それぞれの立場から見た相手の姿と自分自身の姿を自問する場面も描かれている壮大な作品である。その漫画の一コマ一コマを使って講義をするというのも大変な作業になると思われるが、フィールドワークなどもあって江戸時代と作品が描かれた60年代や現代をリンクさせる面白い講義として学生達は受け入れているようだ。学生運動を体験していない現代の学生はこの作品をどう読んだのだろうか。

 漫画カムイ伝は何年もかかった大作で、第Ⅰ部、第2部と続き、現在は第3部が待たれている状態である。しかし作者の白土三平氏が高齢でもあり、果たして今後描かれるのかどうかはわからない。作品全体を通して本人が全てを描いている訳ではないので、せめてシナリオだけでも残しておいてもらってプロダクションスタッフで完成してもらいたいと思う読者も多いのではないだろうか。「カムイ伝講義」田中優子(ちくま文庫)