記憶の限界

「コンビニ人間」を読んだ後に気になっていたので、もう一冊作品を読んでみたいと思っていた。今ならどこでも売っているだろうと思っていたのだが、文庫本はなかなか見当たらず、大きな書店に行った際にやっと買うことができた。何と今度は三島由紀夫賞受賞作品である。内容は団地で小学生から中学生へと育っていく少女の主として学校生活を描いたもので、それほど関心のある作品ではなかったが、読み始めたら引き込まれるものがあり、年齢や男女の違いはあっても納得するところもあった。

 しかし自分はもう小学校時代のことなど憶えていない、中学校も同様である。たどっていくと1020代など断片的にしか記憶が残っていない。恐ろしいことにはつい最近のことまであまり憶えていない。同じ本を二度買ってしまう程度の話ではなく全く残っていないのだ。嫌なことも楽しいことも無いということが残念で怖い。

 学校に於ける集団生活の中で自分の位置を確認しながら生きていくこと難しさなど、子どもたちはそんなことを考えながら日々悩んでいるのかと考えてしまう。集団の中に入れない者はそれだけで惨めな思いを抱いて生きていかなくてはならないとしたら、学校生活はつまらないものになってしまうだろう。この辺りの話は前回読んだ作品に共通するものだから、作者の中にある大きなテーマなのだろう。丁寧に真面目に創作に取り組んでいる姿勢が見えてくる。前回同様に絶賛するほど感動すると言うことはないが、そんな作品に向かう姿勢が見えて読ませるのかも知れない。とにかく先へと読み継がせる文章は気持ちいい。

 解説を書いているのは西加奈子氏である。こちらも評判の作家だが、実はまだ読んでいない。いま読書のペースが落ちているのですぐに次と言う訳にはいかないかもしれない。原因は視力の低下である。何となく焦点が合わないので肉眼で読んでいるのだが、例えて言えば80パーセント位の視力で見ている感じなのだ。従って読後が疲れてしまう。あと何冊位読めるのだろうか。読んでも忘れてしまって憶えていないのだろうか。

「しろいろの街の、その骨の体温の」村田沙耶香(朝日文庫)