切ない気持

 中村文則氏の本は何時か読んでみようと思って単行本で何冊か持っていたが、本を持ち歩いて読むために文庫本で探した。なかなか簡単には見つからなかったが、近所に新しく出来た書店に新装版が出ていたので購入して読むことになった。結果としては外出時などに読むことはなく家で読み終えてしまったのだが。案外早く読み終えて後には切ない感情が残った。この本を読む前に西加奈子氏の本も家にあったので読んでみたが、やはり同じような感じで読み終えた。題材が特殊なのか。現代は真面目に生きにくい時代なのだろうか。虐待についてはマスコミ報道で毎日のように信じられないような事件が伝えられているが、何故なのかその理由が理解できないこともある。心の奥の方まで見ることはできないので想像するしかないが、多くの人が日常的に傷つきながら生活しているとしたら何と悲しい時代なのだろうと思う。幼い時に受けた心の傷は成長過程で癒されることも無くその傷を広げていってしまうのだ。救われるのは本を読む主人公であることとラストにかすかな希望の光が見えることだろうか。同時に収録されている短編「蜘蛛の声」は作家としての執筆三作目だと言うことであるが、自分との心理的な対話が上手く表現されていて読後感が心地良い。

「土の中の子供」中村文則(新潮文庫)、「地下の鳩」西加奈子(文春文庫)