本は選ばれる

 この本をどう評価したら良いのだろうか。私は自分の好きな本を見つけては店に置いているが、そこには当然のように自分が読んで面白いと思った本が並んでいる事になる。したがって極めて個人的な趣味の棚が出来上がることになる。しかし最近は少しずつ変わろうとしている。自分の知っている本の数など限られている訳で、まだ読んだことのない面白い本がいっぱいあるのだ。お客さんからこういう本はないかと聞かれることから始まって、これは面白かったと教えて貰うことにより、今まで読んだことのない分野の本も読むようになっている。この本は書評を読んでチェックしておいたものだが、別の本を探しに行った書店に並んでいたので衝動買いしてしまった。戦争において最も重要な武器となったのが本であったという帯文を見て興味を持ってしまった。

 第二次大戦中ドイツが大量の本を燃やしたということから始まり、アメリカが大量の本を戦地に送ったその過程がかなり詳細に書かれていく。戦況が徐々に厳しくなっていく中で、国民から提供された本ではなく戦地で携帯しやすい軽量の本が出版され、送られ続けていく。これが国家プロジェクトとして熱心に取り組まれている事に驚いてしまう。ドイツだけではなく思想的に危険だと判断された本が処分されたり、作者が弾圧されることはどこの国でも同様に行われていくだろう。ドイツは戦略的にそれを行い、アメリカも同様であるということだ。本が兵士たちの士気を高めるというより戦場での癒しに繫がるということが事実に近いだろう。後半部分では厳しい戦場の様子も描かれる。そんな集団生活の中で唯一自分と向き合える時間となるのだ。そんな本を読む行為の中で特に文学作品を何度も繰り返して読んでいる。

 戦争が長くなり物資が不足していく中でもプロジェクトは続けられる。図書館を中心とした蔵書の提供、収集、それらの選別、不用本の再利用、選書、戦地への発送、送られてくる本の感想の処理、これが繰り返される。次の段階では審議会がつくられ、出版社への働きかけで、「兵隊文庫」という常に携帯出来る版型の本の出版へと進んでいくのである。これは大変な努力であり、その時々に登場する人物の当時の社会への対峙姿勢も描かれる。日本と戦争をしている最中にアメリカはこんなこともやっていたのだ。

 終戦後の兵士たちの行動について最後に書かれているが、これもまた重要な内容である。巻末にはドイツが禁止した本の著者一覧と「兵隊文庫」の一覧がある。貴重な資料だ。「戦地の図書館」モリ―・グプティル・マ二ング(東京創元社)