正月に読んだ五冊の本

 年末に用意しておいた本はまだあるが、全てを読むことはできなかった。取り敢えず掃除をしたり、孫たちと初詣に行ったりと正月らしいこともやりながら、合間に少しずつ読んだ。いま読みかけの本もあるので、今年もこんな感じで出来るだけ読んでいきたいと思っている。食わず嫌いという言葉があるように今まではお気に入りだけを対象にしていたが、お客さんから情報を得て色々なものを読むようになっている。

 雑誌で紹介されていた「罪の声」は年末にかけて推薦している人が何人かいたので丁度良かった。元々未解決事件に関する本が好きで店の棚にも置いている。これは「グリコ森永事件」を題材に作り上げた作品である。この時代の社会的な事件として遺留品の多さは共通しているものがあるが、それでいて未解決となっている。今回はあくまでも創作であるが、筆者の指摘している物語の内容にも共通しているものがある。或いはそのこと故に解決しないと言えるのかもしれないと思う。筆者は元新聞記者だと言うことなので事実をなぞりながら丁寧に書かれており、物語の展開も惹きつけるものがある。未解決事件なのでもしかしたら犯人もこの本を読むことがあるのだろうか。

 「反骨」は沖縄知事の翁長家の政治家としての存在や沖縄の人間関係が良くわかり、国会議員の質も描かれている。何度か使われる米軍兵士の言葉である。「犯罪はなくせると思うか」答えは一斉に「ノ―」である。翁長氏は政治家としてプロであると思うが、その諦観に裏付けられた言葉は哀しい。でも私の意識も氏の指摘通りなのだろう。

 「父よ」は最近よく読んでいる老後の生活を書いたものである。母親は定年後にパーキンソン氏病にかかり、父親は痴呆症となる。おまけに妹は精神疾患を持っている。執筆生活をしている筆者は自分の生活を犠牲にして介護をしなければならない。次々と押し寄せる困難を日々解決していかなくてはならない。そこから解放されるのは両親が亡くなってからだ。現実だがこれは哀しい。筆者は川越市の人である。

 田中さんの本は単行本で出された時にすでに読んでいたが、文庫版を出す際に多く加筆をされていると言うので再度購入して読んだ。本当に読みやすい文章だ。音羽館の広瀬氏の本もそうだった。一度店を見てみたいとは思うが、多分それはないだろうとも思う。「罪の声」塩田武士(講談社)、「反骨」松原耕二(朝日新聞出版)、「渋谷の農家」小倉崇(本の雑誌社)、「父よ、ロンググッドバイ」盛田隆二(双葉社)、「わたしの小さな古本屋」田中美穂(ちくま文庫)