万能な手

 また古本を買ってきてしまった。久しぶりに神保町に出かけてつい何軒かの店を覗いていたら帰りには大きな袋を抱え込んでいた。古本を買う時には多くなってしまっても荷物を送らないようにしている。手元に何も無くなってしまうとまた買ってしまうからだ。したがって帰りには重い荷物を抱えて帰ってくることになってしまう。とりあえず手に持てる範囲で済ませるようになるのでこれでいい。冊数もちょうどいい位になるのでこのペースを守っている。

 古本の値段は大体本の裏側のページに鉛筆で書かれているが、中にはシールを貼っている店もある。あるいは店の名前の入った紙が貼られたいたり、売上伝票も兼ねて切り取るようになっているものもある。帰ってくるとこのシールを剥がすのだが、シール剥がし用のスプレーなどを使うとどうしても紙が傷んでしまう。別にそのままにしていてもかまわないのだろうが、やはりきれいな状態にしないと何となく気になるので何とかうまく取り除くようにしている。そんな時には器具を使うと本を傷めてしまうので、丁寧に時間をかけて手で剥がす。爪を使い角を少しずつ剥がして指の腹でシールを巻き上げゆっくりと剥がしていく。色々教えてもらって試してみたが、これが一番きれいに取れるような気がする。

 本の汚れをふき取り、除菌もして、埃や日焼けやシミなどを少しずつ取り除いていく。表紙や帯が破れないようにカバーをかけてやっと読める状態に持っていくのだが、やはりこの手間暇かけた手作業が何となく本を大切にしているような気がして良い時間になっている。そこから本を読む時間になるのだが、本をパラパラと捲りながら眺めているとなかなか読むことなくすでに完成してしまったような気分になってしまうので困ってしまうのだ。