今更ながら

 何を今更という感じでこの本を読み始めた。芥川賞の受賞コメントで大体の人となりは理解していたつもりでいたのだが、肝心の作品を読まなくては何ともならない。とにかく一度読んでみようと思い、古本で買って置いた。実は、もう一人読んでみたいと思っている作品があり、これも本がすでに用意されている。最近ずっと受賞作品を読んでいる。何となく現代純文学の傾向を探っているような感じだ。たまたまお客さんからこの作家の作品を読んだ感想を聞いたら、二作品位で飽きてしまったということだったが、読んでいないのでは何とも言えない。単行本なので古本がもう安くなっているので助かる。文庫本が出るとネットでは1円、店頭でも100円となる。情けないような金額だが、買う方としては歓迎、問題は読んだ後にどうするのかということだ。芥川賞受賞作品の単行本など世間には溢れている訳だから困ってしまう。

 短編なので後ろにもう一篇収録されており、同時に読むことが出来てよかった。帯に紹介されているように私小説作家としてすでに何作も書いている人である。初めて触れた感想としては、とても面白く読み終えることが出来た。特に前半の部分は引き込まれるように読み進められた。全く想像していたものと違っていたのが言葉遣いで、こういう場面はどういう風に表現するのだろうかと思うような所もすごく納得できる表現内容だったことが意外だった。経歴を眺めていたら作家としてそれなりに経験を積んでいることもわかり、自分で作り上げて来たのだろうと思う。好きな作家を研究し、自分で本を編集してしまうことなども紹介されていたので知っていたが、作家として正直に進んでいることも好意的に評価されるべきだと思う。この作品内容的には最後をどうまとめるのだろうと思いながら読み進めていたが、大事も起こらずそのまま終わらせたのも良かった。読んでみないとわからないもので、読みやすいし、とても参考になる部分があった。自分としては良い印象だったので、余裕があればまた違う作品も読んでみたい。本を読む余裕があれば色々な本を読んでみたい。純文学もこんなに面白いし、とにかく読む本はたっぷりとあるのだから。「苦役列車」西村賢太(新潮社)