探している本は

 長い間探していたみやわき心太郎氏の作品「たなとろぴあ」が今年になって見つかった。何年かかったのだろうか。雑誌「平凡パンチ」に約一年間連載されていた作品である。したがって一年分の雑誌を探していたことになるが、数年前にはあと三冊という段階まで来ていた。そしてそれが見つからなかったのだ。でもまったく偶然に最後の一冊が出て来たのだ。探していれば見つかるものなんだとあらためて思った。だが贅沢なもので探し物が見つかってもそれほど感動的でもなく、無いと思っていても探せばあるという驚きの方が強かった。個人的コレクターという程でもないので、作品を読めれば満足し、しまっておくこともない。今では古本として売ってしまう。

 本の探偵というのを商売にしている訳ではないが、こういう本を探しているというお客さんからの依頼があれば何とかして見つけたいと思っている。店を始めてから何冊かはそう言ったケースもあったし、店にある本を見てこれを探していたと言われれば本当に良かったと思う。そのためにもあちこち出歩いて色々な店を見て回っているし、こんな本があったんだと言うような趣味的な本を買ってきている。ただあまり高くては手が出ない。今はネットでの販売が主流で結構探している本があったりするのだが、こんなにするのかと言う位極端に高くては買うのを控えざるを得ない。丹念に探していれば見つかるかもしれないと思うしかない。

 探求本の依頼を受けて困るのが個人の思い込みが強いと実際の本との違いが出てきてしまうことである。小さい頃読んだ本ならもう記憶もどこか片隅から引っ張り出すようなことになる。全くの思い違いだったと言うことも出てくる。色々な情報をかき集めて一冊の本の形を作っていかなくてはならない。書名や作者や出版社、本の形状や色や内容まで、何でも集めてそれでもわからないのが普通で、自分の知識などほとんどないので細かい部分から思い出してもらうしかない。こんなリストを持ってあちこち歩いている。

 本を探して色々な店を見ていると何となくこの店にはこんな本があると言うのがわかってくるのでそれが目安になる。やはり店主の好みが店の棚にも反映する訳だし、その店の特徴にもなってくる。そうするとそんな本が店に集まってくることになる。昔は古本屋の棚を見るとその街の文化程度がわかるなどと言うことが有ったらしいが今はない。本を売る人もネットで調べて高く買ってくれる所に売るからだ。また近所からの買い取りだけで店の棚を作れる訳もなく、自分の個性的な店を作りたいと考える店主も多い。あの店に行ってみたらどうかと教えることもできる訳だし、探している本が見つかればそれが一番良いことで、探しだしたからといって高く売りつけることもない。ただ情報として色々な店を知っていることはある。でも実際は全くの偶然の出会いが一番多いような気がする。