なるほど小山鉄郎

 以前読んだ本を書いた人の違う本を読んでみた。読んでいて文章の上手い人だと言う印象があったが共同通信の記者の人だとわかった。時間がかかったが内容も良かったし、他の作品も読んでみたいなと思っていたのだ。そこで調べたらあまり著作はなく村上春樹の評論を出していることがわかったが、実は村上春樹の本は一冊しか読んでいない。それも他人から貰った本で自分からはあまり読みたいとは思っていなかった。貰ったので読んでみたが読後も強い印象は残っていない。しかし読みたいと思う人が取り上げているのだから今度はまた印象も違うだろうと思う。著者と村上春樹と同年齢だと言うことである。と言うことは自分ともほぼ同じである。共通する時代を生きてきたことで内容的には理解が進む場面もある。ほとんど村上作品を読んだことがなかったが、帯文に書かれている「こういう人だったんだ」ということは再認識することが出来た。

 タイトルに空想読解と書かれているように本当にそうなのかと言う想いもしたが、それは筆者が後書でことわっているように自分なりの解釈であるということである。でも改めて村上春樹とはこういう人だったのかということが理解できた。そういえば何故ノーベル賞にノミネートされるのかよく知らなかったがそういうことだった。いくつかの作品を取り上げてそれぞれの関連性から持論を展開していく、あるいは他の賞を受賞した時のスピーチ内容から分析していく、本の装丁、作品の朗読などからの分析、村上春樹の色へのこだわりなど、色々な角度から論じられていく。すると原発政策や効率的社会を批判する拘りの文学者が見えてくる。そして作品を通して読者にその答えを迫ってくると言う構造を説いているのだ。知らなかったが改めて本を読んでみようかという所まではいかなかった。作品も結構出ているし読み切れないような気がする。

 この筆者の文章は今回も上手いなと言う印象を持った。本人も言っているように内容はわかり易く書かれている。子供にやさしく説明するように論じていくのだ。もったいぶった書き方はなく結論を先に示して解説していく。独自の見方ではあっても納得させられてしまう。前に読んだ本は何回も同じ所を読んだ記憶があるが、自分にとって何が面白いのかというと筆者のしつこい位の理屈っぽい文章が良いのだろうと言うことである。要するに自分はそんな文章が好きなのだ。「空想読解なるほど村上春樹」小山鉄郎(共同通信社)