夏の思い出

 お盆に帰省した折に帰りの車中でふと見覚えのある景色に出会った。自分が住んでいた街なので見覚えがあるのは当然なのだが一軒の本屋が気になったのである。帰宅してから調べてみたら昔通っていた貸本屋の場所にその本屋はあったような気がするのだ。気になるので翌週またそこに行ってみた。暑いのに今は暇だからそんなことが出来る。

 店の前に立つと確かにそこは本屋である。入ってみると確かに本は置いてあるが数も少なく所謂書店の体はなく古本屋のようでもある。少ない本が棚に面陳列で並べてあり、新刊もあるが古本もある。声を掛けると出てきたのは年配の婦人である。聞くと確かに昔は貸本屋もやっていた時期があると言うことだった。しばらく話をさせてもらっているとだんだんと記憶が戻ってきた。やはり自分が通っていた店で間違いないようだった。そうするとその婦人は当時店番をしていた人そのものだということもわかった。何と50年ぶりの再会である。

 地方の小さな本屋は今では全く商売としては成り立たなくても、所謂街の本屋としての誇りを持って続けているという自負が言葉の中からわかった。かなりの年配なので働けるうちは続けていくのだろうと思う。皆さん懐かしがって本を買ってくれるということだった。ちょうど自分が欲しい本があったので何冊かの本を買ってきた。

 昔自分が通っていた頃は貸本屋としてはすでに衰退期に入っており、本を借りる人も少なく最後の方では貸本を譲ってもらった記憶がある。そんなことで何冊かの貸本を持っていたのだ。聞くとそれらは皆さんにあげたり処分してしまったそうである。今のネット販売のことも色々聞いているそうだが、そんなことは別に本屋として続けていく強い意志が感じられた。懐かしさと感動の夏の思い出となった。