古本と少年

 つげ義春氏に「古本と少女」という作品がある。内容は古本屋の店番をしている少女が、本を買いたいがお金がない少年のために手紙とお金を挟み込んで買ってもらうようにするという話である。その本は別の人に買われてしまうのであるが、後日買った人から少女の手紙とともに送られてくる。何ともほほえましい作品である。この作品は貸本漫画で発表されたものを雑誌「ガロ」で描き直しているようにそれなりに思い入れのある作品のようだ。

 先日店に男子高校生がやってきた。彼は二冊の文庫本をレジまで持ってきたが、一冊には当店では珍しく400円の値が付けられていた。彼は「考えさせて下さい」と言ってしばらく棚を見ていたが別の本を買っていった。彼が帰った後、それほど読みたいのなら何故100円で売ってやらなかったか。何故こんな古本屋をやっているのか。私は後悔して自分を恥じてしまった。そんな想いを抱えていた。

 二日後に彼はもう一度来店した。堂々と迷うことなくその本を取り、私に差し出した。今更値引きする訳にも出来ずに買ってもらったが、「お母さんからお金が貰えたので買いに来ました」と言って嬉しそうに帰って行った。ホッとして安心し、懐かしい漫画作品を思い出した。その本が彼にとって意味のあるものになればと思う。手元に無くなってしまったので記憶に頼ればその本はサン・テクジュべリの「人間の土地」だっただろうか。