かわいそうな象の真実とは何か

 地域の仲間たちの集まりの中で絵本「かわいそうなぞう」の話が出た。近くに児童文学を教えている教授が住んでおり、その講演会に参加した中で題材に挙げられたようである。その講演会にそ出席できなかったので、その真実とは何かと言うことを教えて貰おうとしたが実態が何か上手く伝わっていないようだった。そんな訳で何冊かの絵本を読むことになった。

多分この絵本を読んだ人やラジオで「秋山ちえ子の談話室」を聞いた人、学校教科書で学んだ人が多くいるのであろうと思う。私は知らなかったか忘れていたのだろうか憶えていなかった。

 簡単に言うと、戦争中に、上野動物園に飼われていた象が、住民に危害を与えないようにと殺されてしまったというお話である。絵本では空襲の場面があったり、戦争のために象が死ななければならなくなったので戦争はいけないと言うことになっている。講演会での教授の話ではこれには違う真実が隠されているということのようだったが、実は皆さんの話の中では何が真実なのかがきちんと見えてこなかった。そして実際本を読んでみていくつかの真実があると言うことがわかった。

 絵本とは言え結構難しい話でもあった。ストーリーは省くことにするが、絵本自体にも不自然な描写がある。戦時中に猛獣の処分に関する国の命令は出ていなかった。東京都長官からの命令であった。動物が殺された時にはまだそれほど緊迫した状況ではなかった。戦争を国民に自覚させる意味で殺害し、まだ生存しているうちに慰霊祭を強行している。他の動物園での引き取り(疎開)を認めなかった。象だけではなく他の動物も処分された。いくつか箇条書きにしたが、細かい部分の描写はかわいそうな話としては事実なので詳しくは書きたくない。象が毒入りの餌を見抜いて食べない、餓死させようとするが餌が欲しくて芸当をする、飼育員が内緒で餌を挙げると倉庫の鍵をかけられる、想像するに悲しい話である。平和教材としてのお話であるが、いくつかの本を読んだので、余談として日教組の方針、東京都長官の人物像、戦争児童文学評論、象を助けた名古屋東山動物園での軍人の話など、色々な内容が頭の中に入ってきてしまった。

  戦後にタイから贈られた井の頭動物園の象の花子の話は絵本とは別に人間と動物との関係を考えさせられる問題でもある。世界一かわいそうな象として非難を受けた経過など、群れから離れたった一頭で動物園に飼われて、飼育係の入ってくるドアの前で立ち尽くす姿を想像するだけで胸が痛む思いである。子供が小さい頃から色々な動物をペットとして飼っていたが、結局動物の世話をすることに疲れ、自分が世話をすることになってしまうことがほとんどだった。そんな人間の身勝手な行動から一時的には可愛がられても最後には捨てられたりしてしまう動物たちがいるのも事実である。なにをもって真実と捉えるのか問題点はいっぱいあるような気がする。「かわいそうなぞう」つちやゆきお(金の星社)、「そして、トンキーもしんだ」たなべまもる(国土社)、 「戦争児童文学は真実をつたえてきたか」長谷川潮(梨の木舎)、「戦争童話集」野坂昭如(中央公論社)、「もう一つの上野動物園史」小森厚(丸善ライブラリー)