絵本の思い出

 小さい頃に絵本を読んだ記憶がない。当然子供の頃には読んだ筈なのだがタイトルも絵柄も覚えていない。店にも絵本がほとんどない。何が良い絵本なのかがよくわからないので仕入れが難しいのだ。自分の小さい頃に読んだであろう絵本や今はこんな本が読まれているのではないだろうかと言うのが選ぶ根拠になるのだろうか。何を棚に並べればいいのかわからない。全然置いてない訳ではないがかなり消極的な選択方法になっている。お客さんからの買い取り依頼で店に集まったものをそのまま処分しないで置いているのである。今お客さんに読まれているのだから面白いのだろうという程度なのだ。絵本に限らず児童書の類もなかなか難しい。これも極めて偏った本しか読んだ記憶がない。ほんの数冊程度の本しか思い浮かばない。したがって絵本と同様に集まった本を置いているだけだ。

 大人になって読み始めた絵本がある。勤めている時に休みなどを利用して「絵本の学校」という所に通ったことがある。夜間に東京まで通って一流の絵本作家の講義を受けた。けっこう高額の受講料を払った覚えがあり、毎週のように通っていた。「月刊絵本」という雑誌があって、これを読んでいたのだ。ただ何故絵本の雑誌を購読していたのかは覚えていない。自分で絵本を書きたかったのかも知れないと思う。その「絵本の学校」の講師兼事務局員のような存在で長谷川集平という若者がいた。「月刊絵本」を出していたすばる書房に勤めながら絵本作家としてもすでにデビューしていたのだろうか。その出版社の企画である「絵本の学校」の事務局的なことをしながら講師もしていたのだ。多分最初の講義だったように思うが、彼はいきなり自分の絵本を破り始めたのだ。絵本なんて破けばただの紙だということだったが、これがなかなか破けない。彼はかなりやせ形の若者でそんなに握力があるとは思えなかった。結局、絵本の装丁はしっかりしていることがわかったという結論を出したのだ。長谷川集平氏の作品「はせがわくんきらいや」は自身の体験を描いた森永ヒ素事件をテーマとした絵本である。それゆえ体力もなくひ弱な少年が主人公である。それが何となくイメージされてしまった講義だったが、その試みはよく理解できた。だが実際に本が破けなかったので後に出た人からうちの出版社の本はしっかりしていると言われてしまった。この本は「月刊絵本」の別冊として出されているが、まるで個人集のような本である。その後に色々な所で名前を見るようになったが、この二冊の本で人となりを理解できるのではないかと思う。店には長谷川集平氏の本が何冊か集められて並べてある。「絵本宣言序走」長谷川集平(すばる書房)