人間・詩人

 割とすぐに読み終えたのだが何とも不思議な感慨を覚えた。黒田三郎という詩人を自分は知らなかったようだ。詩人としての名前は知っていたが詩集をよく読んだことがなかった。そして最近復刻された「小さなユリと」という詩集を読んで、自分の小さな娘と暮らす様日々の子を描いた詩にとても感動した。こんな素直なわかりやすい言葉で詩をかける才能に驚いた。だが今回この本で詩人の生活実態はかなり違ったものであったということがわかる。NHKの管理職で酒好きの詩人であったということもわかった。すぐに退職したのかと思ったら20年以上も勤め上げていたようだ。この本は同じ職員だったという夫人が書いた黒田三郎の実像を描いた本である。赤裸々に書かれた普段の生活を覗き見るような感じなので少し驚いてしまったのだ。後半は二人の手紙のやり取りである。知らなかった色々な事実がわかってきてしまうのだ。わかってしまうということが問題である。詩を読むことは詩人の生活を知りたいこととは違う。作品の中からその人を想像することはできるが、それ以上を知りたいとは思わない。以前は夫人へのラブレターを詩集に仕立て上げたこともあるようだ。もちろんそれは詩集として成立するだろう。この本はその夫人が書いたものだ。実はこの人がなかなかの人物であると紹介されて読んでみたのだ。詩人ではなかったようだが、文才もあるようでおしゃれで軽妙なな読みやすい文章である。そこから見えるのは妻としても個人としても良く出来た人のようだ。多分実際に周りから見ている人の目にはもっとわかりやすいのかも知れない。夫人の人柄は多くの回りの人達に好感を持って受け入れられていたようだ。それがそのまま感じられる一冊であるが、愛し合っていた二人の姿がそのまま伝わってくるので照れくささも感じた。「人間・黒田三郎」黒田光子(思潮社)