孤独を生きること

 近くに大きな書店が出来たのでどんな本が売れているのか定期的に観察している。新刊はきちんと陳列されて週間ランキングまで作られているので参考にしている。不満なのは雑誌だが全体的に頑張っているのではないかと思っている。地方の街中の大型書店としてはそれなりに欲しい本が揃っているのだ。気になった新刊本は買って読む。そうして積み上げられている本がけっこうある。これはタイトルと表紙を見て衝動買いしたのだが買ってすぐに読んでしまった。表紙に書かれている通りの内容である。人と会うのが嫌になって森の中にひっそりと一人で暮らしていたが、生活は森の近くにある別荘地で泥棒をしてまかなっていたので逮捕されてその事実が発覚したということになった。獄中に訪ねた筆者がその経過をまとめた本である。上京してからひたすら働いてきた私も何回か単身で生活したことがある、生活を維持するためにも必死で働かなくてはならなかったのでそんな生活を楽しむことなどは考えなかった。それぞれの仕事が優先したので常に家族が一緒にくっついて暮してきたという感じはなくそれなりに一人の時間を持つことが出来たのだ。漫画家のつげ義春の作品に妻に内緒で仕事場と称して別の部屋を借りると言うものがあった。創作をするには良いかもしれない隠れ家的なものにあこがれることも理解できる。だがこの人は他人と会うことや話すことや社会生活を放棄してただ生きることを望んでいるのだ。もしかしたら現代社会にもこんなことがあるのかもしれないと思ってしまった。驚いたことは27年間の孤独な生活の中で一度も病気をしていないということだろう。だが目と歯が悪くなって眼鏡は諦めたという。その反動で聴覚と嗅覚が発達したのだという。目は元々悪かったようで歯は食事の好みが影響したようだ。「ある世捨て人の物語」マイケル・フィンケル(河出書房新社)