声はすれども姿は見えず

「声はすれども姿は見えず、ほんにあなたは屁のような」、これはグループサウンズ「ジャガ―ズ」のボーカル岡本信がよく使う喋りだった。場所は「新宿ACB」だったろうか。小さなライブハウスだった。ステージから客席は暗くてよく見えないのでこんなことを話していたのだと思う。何度か見たライブステージでよくこの喋りを使っていた。田舎から上京してテレビで見ていたバンドの生のステージが見られるという事は信じられないような思いだった。当時は仕事休みの度に音楽と映画を楽しむ日々だった。勤めていた印刷会社の現場での仕事はなかなかハードだった。それでもまだ若かったので夜勤明けにそのまま寮に帰って寝ることなど考えられなかった。会社で風呂に入れるのでそのまま着替えて映画館に行って半分眠りながら映画を観た。ライブハウスの午後の部はほとんど客もいないので練習をするような感じの演奏を一杯の飲み物で楽しむことができた。

 私が上京した時はもうグループサウンズブームは下火になっており、あまりやる気のないバンドがほとんどだった。それでも「タイガース」など有名なバンドだけは入れ替え制になっていて若い女の子がまだ群がっていたような気がする。私が見ていたのはほとんど名前の知られていないようなバンドだった。そんなバンドの中に「ロンリ―・ジャックス」というグループがあり、何度か聴きに行った記憶がある。特に特徴的な音でもなくオリジナルの曲も色々なヒットしたものを散りばめたようなものだった。「ハプニングス・フォー」とか「ダイナマイッ」とかも面白いバンドで何度か聴きに行った。しかしそのうちにライブ喫茶的な店が無くなってしまい、自分の生活も大変になってしまったので音楽も映画もほんの数年間でほとんど行かなくなってしまった。先日来店した音楽好きのお客さんから音楽関係の本がけっこう揃っていると言われたが、実は今はもうほとんど売れてしまってあまり残ってはいない。元々趣味で集めた蔵書が出発なのでそんな昔の本が好まれて売れることは有難いことだ。