記憶の底に

埼玉の田舎にあった自分の家には農家らしく母屋の他に小さな小屋のような建物が点在していた。覚えているのはすでに物置になっていて色々なものが詰まっていたことだ。父親が結構な趣味人で色々なものの中には古い昔の新聞などもあり時々それらを小屋の中で読んでいた記憶がある。小さいころ母親からその小屋には遠縁の一家が疎開していたと言うことも聞いた。今では全く思い出せないがその人がたまに訪ねてきたようだ。実家には色々な人が出入りしていたので今となってはそれらの人が一体誰なのかわからない。知っている人もすでに誰も居なくなってしまった。そんな懐かしい興味を持って遊んでいたものも残念ながら今ではどこにも残っていない。何度か帰省している間に家も建て替えが行われており出入りしていた人間関係など家を出て生活してきた自分にはまるで他人の家のことのようになっている。ただ当時その小屋に一時住んでいたという人が子どもを連れて家に来た時のことを微かに記憶しているだけである。年を取ってからそんな小さなころの記憶が断片的に思い出されて何とも懐かしくもどかしい気がする。もっと色々なことを聞いておけばよかったという思いだ。

地域の中で活動している人が記録として本を残しているものを少しずつ集めている。お客さんの中にはそんな情報を持った人が多くお客さん自身も書き残していることがある。今回そんな一冊の本を教えてもらったので入手しておいた。それをやっと読み終えた。近くの高校で教師をしながら生徒とともに地域の戦時中の学童疎開のことを調べ上げた本である。最終的には30年の時間がかかっていると言う。全国的に展開されていたのだろうが身近な地域の中で行われていた疎開の現実が詳しく調べられているので興味深い。自分の実家のある地域も含まれている。その際にどのような事情があったのか受け入れ先から見た学童疎開の現状をまとめたものである。自分が今住んでいる場所にも戦時中の地下豪跡が残されている。以前にはその調査報告なども聞いたし、実際に近隣の同様の跡地を見に行ったこともある。おそらく土地開発などでそれらはもう見ることもできないだろう。結構資料も残されているようで中で見ることもできる。こうして纏められて残るのはありがたいことである。「学童集団疎開」一條三子(岩波書店)