涙がこぼれたのを見た

先日新聞の書評欄で読んだ中で気になった本があったので買って読んでみた。文学賞の予備審査なのか編集者が読んでいて泣いていたという文章だったので読んでみたくなったのだ。本には二作が掲載されていたが表題の作品はいきなり関西弁の文章だったので戸惑いながら時間をかけて読んでみた。どこで泣けるのかと期待しながら数日かけて読み終えたが残念ながらどこで泣けるのか気付かないうちに読み終えてしまった。泣けなかったが良い作品だと思った。

前の店をやっているときには通る人から見えるところに勤めていた会社の求人チラシを貼っていた。その所為か暇な店だった所為か本を買う以外のお客さんが結構来た。多くは仕事は無いかというものだったがほとんどは社会に対する不満を話して帰って行った。ある時来た若い女の子は店でいきなり泣き始めた。泣きながら郵便局で働いていたが辞めて仕事が無いという事だった。どうも障害を持っているらしく働かないとお母さんに申し訳ないとしきりに言う。見た所何の障害があるのか全く分からなかったがどこも雇ってくれないと泣き続けていた。他にお客さんがいなかったので良かったが知っている所を紹介して帰って貰った。驚いたのは瞬きもしない大きな目から丸い大粒の涙がぽたぽたと零れ落ちたことだった。よくテレビドラマなどではあるのだろうが本当に丸い粒が次々と零れて床に落ちていった。透き通るようなきれいな丸い涙の粒を初めて目の前で見た。女の子が帰った後でそこをモップで拭き取った。そんなことを思い出した。