文庫本を読むこと

私の読書遍歴は極めて偏っている。10代の時から面白いと思った作家の本を集中的に読んでそれ以外の作家の本はほとんど読んでいない。その読んだ作家も覚えているのは芥川龍之介、大江健三郎、庄司薫位である。最近は文学賞などを受賞した作品を読むようになり、気になった作家の本を読んだりとかなり雑多な読書になってきたが、それでもその範囲はかなり狭いと思う。昔の事や小さい頃の事はもうすでに忘れてしまっているので読んだような気がする程度の記憶が残っているだけだ。そんな記憶の中に何人かの作家の名が浮かんでくる程度だ。そして内田百閒だが全く読んだことが無かった。お客さんから教えられてどんな作品があるのかを知った位なのでこれははっきりしている。本棚に「冥土」という作品集があったが読んでいなかった。内容について聞かれたことがあったので時間のある時に読んでみた。冒頭にあったのが「昇天」という作品だったと思うがこれが面白かったのだ。そこから他の作品もいくつか読んでみたのだがそれほど面白いとは思わずそこまでで終わってしまった。やはりお客さんから教えて貰った作家に庄野潤三があるが読んだことが無いと思う。読んで忘れてしまった名前もけっこうあるのだが読み始めてその文章に記憶が無かった。どこかの書評で「静物」という作品の事が書かれていたのでその作品が載っている本を探したところ書店の棚にその文庫本があった。すでに四十一刷りであったのでかなり読まれているのだなと思った。幸いに最近の文庫本の価格にしては安かったのでこれを読んでみることにした。本の最初に入っていた「舞踏」という作品のことにもふれてあったが全体的にこういう文体なのかと納得できた。どれも今まで読んでいなかった分だけ新鮮で面白く読めた。最近出ている文庫本は昔の文庫と違って文字が大きくなっていて何とか読めるようになった。若い頃から目が悪く高齢になっていつまで本が読めるのかわからない感じになっている。残された時間でどれだけ読めるのかわからないが推薦された本は何とか読んでみたいと思っている。無駄な読書をしてきたとは思わないが少し偏った傾向があったので最近の色々なジャンルの本は皆新鮮な感動がある。