私は紙の本を憎んでいた

新聞の紹介記事を見て発売日を調べたら22日となっていた。生憎当日は本格的な雨だったが地方デパートの中にある書店に出かけた。芥川賞受賞作品とか有名な作家の新作とかになるとこの店ではいつも発売日に並んでいることが無くしばらくすると第二刷目の本が出てくるのである。本が売れないという昨今の状況からは都市部の大型書店に新刊が集中するのは仕方のない事なのかも知れない。いつもそんなことを経験していると早く読みたいと思う本は東京に行って買うことになる。折角近くに大型書店の系列店があるのにと歯がゆくなる。今回もそうなるだろうと思っていたのだが何と二冊も置いてあった。市川沙央「ハンチバック」である。文学界新人賞受賞作で芥川賞候補作なのに発行日一週間前に買えるという事で早速その場で購入し折角なのでその夜に読み終えてしまった。難病で車椅子生活をしながら執筆活動をしてきた作者の社会に挑戦するような内容に驚きながら読み終えた。私小説と読まれるだろうから家族には読まないでと言っていたそうだが読んでしまった父親としばらくは喧嘩状態になったという記事も読んだ。私は全体の内容よりも最初の部分に出てくる言葉に打ちのめされてしまった。最近乱読気味に色々な本を読んでいてこれでいいのだろうかと思っていたのだ。その部分を最後に紹介しておきたい。

 

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、頁がめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、ーー5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。その特権性に気づかない「本好き」たちの無知な放漫さを憎んでいた。