2015年

9月

30日

暖かい日陰に

 店には出していないが、漫画も少しだけ在庫がある。多いのは漫画関係の評論や同人誌、雑誌などでこれはまたかなり偏っている。単行本や貸本なども少しだけ持っているが、これらは資料的なものである。後は全て売り払ってしまった。小さい頃から漫画を読んで育ってきたので、実は結構な数をこなしてきているのである。そして最近も気になる作品は読み続けているのだ。

 つい最近も、青林工藝舎から出された「暖かい日陰に」という本を買って読んだ。作者は神村篤。あまり知られていない漫画家だと思う。最初の作品が2012年に「アックス」という雑誌に入選作として掲載された時に、面白いと思って切り取っておいた。その後、同誌に年2~3回程度作品が掲載され読んでいた。経過から他の雑誌などには載っていないと思われる。そして今回、初めての単行本が発行された訳だが、それでも読んでいない作品が含まれていたのでこれは嬉しかった。

 この本に納められているのは8作品、どれもなかなかの佳作である。しかし、やはり一番は最初に掲載された表題の作品である。内容は近未来の社会をテーマにして、人間の持つ感情的な部分をロボットが持ってしまい、自らを制御不能にしてしまうという設定である。有名な「鉄腕アトム」でも同様だが、ロボットは人間によって管理される存在であり、反抗したり抵抗できないように作られている。しかし、管理する人間がロボットに対して抱く感情がロボットに理解されないことにより、ロボットが故障してしまい自傷行為を起こすという事件が起こる。また、管理者の意志を忠実に実行する段階で人間的な部分を共有してしまうことが起こったりと、結構複雑な展開になっているのだ。私が一番気に入っているのはロボットが自分の管理者であった人間の思い出せない詩を思い出し、その内容に何故か魅かれるという所である。たかが漫画ではあるが、作者は小説家のようにこの作品を組み立て、やさしい絵柄で描き出しているのである。

 他の作品を読んでもわかるのだが、内容的には自分の体験を下敷きにして書かれており、高野悦子の「二十歳の原点」やヘッセの「車輪の下」などを中に引用するなど、文学的な香りも散りばめられながら描かれている。「暖かい日陰に」というのは作中に出てくるの詩のタイトルでもあり、作者が高校生の時に作りかけ、今回作品を描いた44歳になって完成させたというエピソードも実にいいお話ではないか。事実それまで漫画を描くこともなく一般企業で働いて、たまに油絵を描いていただけというのも信じられない位に味のある絵である。こんなペースで時間配分された生き方は実に羨ましい。もっともっと時間をかけて描かれた、このデビュー作を超えた作品を読んでみたい。

 

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2015年

9月

23日

読書の姿勢

近頃、老齢で視力の衰えが著しい。元々近視のために眼鏡使用を続けてきたが、重ねての老眼では本を読むのも億劫に感じてしまうことがある。老眼鏡も作製してみたが、一々取り換える手間が面倒でついつい裸眼での読書となっている。これがさらに眼鏡補正との差を生じており、字を眼で追うことに疲労感が出てきてしまう。年齢を重ねることからくるのは視力の低下だけではなく、視野の狭窄や混濁も当然のように出てくる。加えて若い時からの猫背を矯正出来ずにおり、長時間同じ姿勢を保つことがさらに肉体の疲労を生み出しているという状況だ。

さて、タイトルは読書に向き合う心構えではなく、どのような姿勢で本を読むかという単純なものである。規律正しく机に向かって、正座して読む人はそうそう居ないと思う。想像するに一番楽な姿勢でとなると、寝ころんで読むということになるだろう。でもこれが一番視力を低下させるらしい。また、内容が面白くなり、長時間の読書となると、どんな姿勢で読んでいても疲れてしまい、後で肩こりや身体全体にまで疲れが出てしまう。本を読むのも一定の時間で集中して読むのが良いのかも知れないと思っている。

最近少しずつ店の本を読んでいるので、以前と比較すると読書の時間が多くなっているのかも知れない。それで疲れてしまっても仕方がないことなのだが、少しでも読み終えてから売りたいと妙に頑張っている。店にいる間ずっと本を読んでいる訳ではないので、ちょっと変かも知れないが椅子に座って下を向いて読んでいる。これが私にとっては結構楽な姿勢と言えるかも知れない。ただ外から見ると、本を読みながら寝てしまっている人のように見えるのではないかというのが心配である。


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2015年

9月

17日

読書の腕前は

 今更ながら岡崎武志「読書の腕前」を読む。今更というのはこの本がすでに七刷を数えているからだ。私の購入したのは六刷だったが結構読まれているようだ。氏の本は他にも読んだことがあるのだが、最近増えているこの手の読書本は実は買わないようにしている。読むとそこで紹介されている本を読みたくなってしまうからということもあるし、自分にとってどうでも良い本を素晴らしい紹介の仕方をしているという時もあるからだ。今回も中で紹介されていた本の中で何冊か読んでみたいと思う本があり購入したのだが、読んでみたらそれほど面白いとは思わなくてすでに古本として棚に並んでいる。やはり本は自分の目で見て気に入ったものを選んで買うというのが一番である。この本でもそのように書いている。

 岡崎氏の書く文章の面白さは軽妙さとその好奇心の深さにある。それが意外な事実を知らされたり、なるほどと妙に納得する部分があり、興味を覚えるところでもある。好奇心の深さというか実はその多様性でもある。一つの事柄から興味がどこへ飛んでいくのかわからない面白さであり、それはやはり本を数多く読んでいく中で得られる豊富な知識からくるものなのか単に趣味的な好奇心の強さからくるものなのかは知らないが、常に驚かされる点である。長く古本の世界に関わってきたと同時に業界に女子が参入してきたことを早くから注目評価し、一箱古本市などを開催奨励してみたりと古本業界全体に大いに貢献している。また氏は自分の店は持たないが、棚を借りて自ら古本を売り捌く古本屋でもあるのだ。

 本は当初2007年に新書版で出されたものが、2014年に文庫版として出され、現在も増刷されているということである。したがって内容的には古くなるのだが、さほどの違和感は感じない。ブックオフやネット販売の利用法なども含めてむしろ新鮮な感じも受ける。古本だけではなく読書家の生活が面白くリアルに語られているからである。最後の方では氏お勧めの本がかなりの数が紹介されており、これはこれで納得できてしまう。そして何とこの本の帯は芥川賞を受賞したピース又吉氏の言葉だったのだが、どこかに捨ててしまったようで今は付いていない。敢えて捨てた訳ではないのだが。


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2015年

9月

10日

30年ぶりの再会

先週は小岩の古本屋へ出かけました。ネットで調べたら古い雑誌を置いているという店があったので、ネットで売られている雑誌の他にもあるのではないかと思い雨の中を出かけたのです。店は事前に調べたようにすぐに見つかり、肝心の雑誌類はあまり欲しいものはなかったのですが、なかなかの棚で何冊かの本を購入してきました。

何故小岩なのかと言うのは、先日そこに住んでいる知り合いから近況を書いた葉書が届き、電話をしたら今日なら会えるということだったのです。今では年賀状をやり取りするだけで済ませている状態でしたが、ほとんど違和感なく話も出来て、お互いに老人になってしまった近況を語り合いました。正確には覚えていないのですが、約30年ぶりにはなろうかという久しぶりの対面でした。近辺の共通の知り合いの近況もわかりました。趣味の仲間として、以前はお互いの家を訪問したこともあったのですが、もう次は会えないかもしれないと言って別れました。

30年以上前のことは懐かしいだけで、今ではもうどうでもいいことばかりです。故郷の同級生や職場の仲間、趣味の友人たち、会えば思い出す人たちですが、普段は全く考えていない生活です。年を取って昔のことが懐かしくなり、どうしているのだろうかと思い出すのは、いよいよ人生の終わりの時なのかも知れません。ここ何年かで大体昔の思い出に残る人や場所は訪問しているので、もう心残りな部分はなくなっているかも知れません。

次の日は、大雨で電車が止まったり、道路が浸水したりという状態だったので、思い切って出かけて良かったと思っています。この大雨は50年ぶりだそうです。最近は100年ぶりの出来事とか、未曾有の事故などと言うのが多くて、何が起こるかわかりません。

 

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2015年

9月

03日

古本を求めて

すっかり生活習慣のようになってしまっている古本探しです。毎週のようにと言うより現在の所確実に毎週フラフラと歩いています。先週は中央線沿線の気になる店を見てきました。すでに三回ほど行っているのですが、まだ開いているのを見たことがありませんでした。でも開いていました。偶然にも開店準備をしている所でした。しばらく待っていて店内を一巡しました。狭い店ながらいっぱい本が詰め込まれていて良かったです。二冊買いました。

この日は中野で二店訪問し、そこで偶然にも店のお客さんに出会い、少しの間お茶の時間となりましたが、その後に高円寺まで行き、三店を見てきました。ほとんどが若い人が経営している店で、どの店も個性的で良いです。本棚を見るのは結構疲れるものです。私はそれぞれ時間をかけてじっくりと見ます。一応すべての棚を見て回ります。そんな訳で帰途につく頃にはすっかり疲れきってしまいました。それでも何冊かの購入した本を抱えて帰る時間は何となく嬉しいものです。購入した本は次の週までに読むのですが、今度はあそこの店に行ってみようと考えているのですから、生活習慣ではなく生活習慣病です。

お客さんから依頼された本も探しています。しかし、これがなかなか大変な作業で、そう簡単には出てきてくれません。私が探している本も何年もかかってまだ完結していません。昭和49年の雑誌「平凡パンチ」ですが、やっとあと二冊までにこぎ着けました。そんな訳ですので、依頼された本も少しずつ前進していると思ってお待ちいただきたいと思います。

 

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