2019年

2月

27日

末永史を知っていますか、その後

 70年代初期の青春時代を駆け抜けるように漫画雑誌「ヤングコミック」に異彩を放つ作品を発表した末永史。ほとんどが短編で閉められた作品からは、私小説風に自らの体験を描き出しているように見えるが、その時代を映し出していて今見ても興味深い。当初の絵は固く上手いとは思わなかったが、少しずつ馴染んで味のある絵となっていく。私が読みたいと思って働きかけた初期の末永史作品を集めたものが「二階家の売春婦」という一つの本にまとめられた。 さらに後年になって雑誌「コミックばく」で復活、やがて本誌「コミックばく」は廃刊となったが、新潮社から出された「家庭の主婦的恋愛」という一冊の単行本が残された。その後、全く突然にワイズ出版から「銀恋」という全編描き下ろしの作品集が出された。漫画作品はここまでで、この間にはエッセイや小説などを発表していたようだ。 そして再び、これも突然に一冊の本が同じ出版社から出された。何と帯には遺稿集とある。あとがきを読むと最近亡くなったと書かれている。それも長年病気を患っていたなどということではないようなので余計に残念だ。今回は残された遺族の編集になるものなので少女漫画家としてデビューしてから最近の小説までの全てがちりばめられている。最近は小説の講座に通っていたようであるが、私は青春期の漫画作品が好きだった。絵柄は変わってしまったが後年の私生活を描いたような作品もとても魅力的なセンスの良いものだった。漫画作品は読めなくなってしまったかも知れないが、あるいは小説でまた活躍したかも知れないと思うと重ねて残念なことだと思う。「猫を抱くアイドルスター」末永史(ワイズ出版)

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2019年

2月

17日

石神井フォーク村

 歳を重ねる度に昔の記憶は遠ざかっていく。ちょっと前まではそんなことの無いようにメモを残していたが、今はもうそんなことはしないで言わば日常を垂れ流しているようにどんどん忘れていってしまう。古いパソコンのデータの中から見つけたのは私が東京で生活していた数年間のメモであった。その中にあったこの言葉は当時石神井公園で行われたコンサートを見に行った時のものである。これは何だったのかはわからないが覚えているのは観客もほとんどいない公園で歌を歌っている人たちであった。もう本当に記憶もぼんやりとしている。だがこれが一冊の本で明らかになった。まさにそんな時代だったのかも知れないなと思う。学生運動が終わり活動家たちがどう社会の中で生きていくのかを模索していた時に地域の中で運動を創ろうとしていたのかもしれない。それは全国的にネットワークが出来つつあったのかも知れないし、あるいはそれぞれが独自に集団を創っていたのかも知れない。そんな仲間たちを訪ねて全国を歩いて回ったのがこの石神井の人達であった。というのが記録として本になっていたのだ。古本なのであちこちに書き込みがあって売れるとは思えないが貴重な資料として店の棚に置くことにした。調べてみるとまだ東京で活動している人たちであったということにも驚いた。「生存への行進」大友映男(新評社)

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2019年

2月

10日

声はすれども姿は見えず

「声はすれども姿は見えず、ほんにあなたは屁のような」、これはグループサウンズ「ジャガ―ズ」のボーカル岡本信がよく使う喋りだった。場所は「新宿ACB」だったろうか。小さなライブハウスだった。ステージから客席は暗くてよく見えないのでこんなことを話していたのだと思う。何度か見たライブステージでよくこの喋りを使っていた。田舎から上京してテレビで見ていたバンドの生のステージが見られるという事は信じられないような思いだった。当時は仕事休みの度に音楽と映画を楽しむ日々だった。勤めていた印刷会社の現場での仕事はなかなかハードだった。それでもまだ若かったので夜勤明けにそのまま寮に帰って寝ることなど考えられなかった。会社で風呂に入れるのでそのまま着替えて映画館に行って半分眠りながら映画を観た。ライブハウスの午後の部はほとんど客もいないので練習をするような感じの演奏を一杯の飲み物で楽しむことができた。

 私が上京した時はもうグループサウンズブームは下火になっており、あまりやる気のないバンドがほとんどだった。それでも「タイガース」など有名なバンドだけは入れ替え制になっていて若い女の子がまだ群がっていたような気がする。私が見ていたのはほとんど名前の知られていないようなバンドだった。そんなバンドの中に「ロンリ―・ジャックス」というグループがあり、何度か聴きに行った記憶がある。特に特徴的な音でもなくオリジナルの曲も色々なヒットしたものを散りばめたようなものだった。「ハプニングス・フォー」とか「ダイナマイッ」とかも面白いバンドで何度か聴きに行った。しかしそのうちにライブ喫茶的な店が無くなってしまい、自分の生活も大変になってしまったので音楽も映画もほんの数年間でほとんど行かなくなってしまった。先日来店した音楽好きのお客さんから音楽関係の本がけっこう揃っていると言われたが、実は今はもうほとんど売れてしまってあまり残ってはいない。元々趣味で集めた蔵書が出発なのでそんな昔の本が好まれて売れることは有難いことだ。

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