2016年

5月

26日

臨死体験

 霊界やオカルト、死後の世界などの本に関心を持ち、それらに関する本を読んでいたことがある。そこから宗教関連の物にも及び新宗教にも手を伸ばした。しかし現実には霊感が強いわけではなく何も体験することも無く想像するしかない。臨死体験にはこんなこともあるのだと思うだけである。以前に読んだ立花氏の「宇宙からの帰還」からは人間が宇宙空間から受ける何らかの影響力が、その後の人生に作用するのではないかと想像していた。無重力の世界だけではなく自分の足の下に何もないという感覚がわからないのと同時に、考え方や生き方に影響を与えるものがあるのだろうと思っている。その本の中には宇宙飛行士を体験した人のその後の人生が書かれており、何人かの人が農業を営んでいるということがわかった。その共通感覚は何だったのだろうかということに興味を持っている。

 今回の本は事故や病気などで臨死体験をした人達の話をまとめたものである。ほとんどの人がそれを憶えているということにも驚くのだが、その体験が似ている事にも驚いてしまう。死の世界の入口まで行ってしまった訳で、しかし皆そこから帰還しているのだ。体験したことの中に共通している事がいくつかある。一つは幽体離脱という現象で、自分の意識が身体から離れて自分を外から見ていることである。この際には自分の実態はないがとにかく見ているし、憶えているのだ。また死の世界に行く所には川や水が流れている。そしてそこに入っている人とその手前にいる人がいるのだが、渡らずに戻ると生き返ると言うことである。最も共通しているのは暗い所から例え様のない花が溢れた光の強い所に出るということである。その時点では誰もがとても心地良く感じているのだ。生き返って当然痛みや苦しみに耐えることになるので、あの時行ってしまえば良かったと言っているのだ。そして生環して全く元のようになる訳ではないのだが、当然死に対する恐怖感が変わっている。

内容的にはよく言われている事であり、本当にそんなことがあるのかと思う。私も事故にあって呼吸できずにのたうち回っている時にこうして死んでいくのかなと思ったことがあるが、そこから先は経験していない。突然やってきて意識が飛んでしまえばそれだけのことで後はわからないが、渡ればいいのか。年取ってこういう本を読むと現実的だ。「証言・臨死体験」立花隆(文芸春秋)

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2016年

5月

19日

敗北を受け止めて

 出席した読書会で書名を知って読んでみようと購入していたが、これも読み終えるまでかなり時間がかかった。上下巻ともかなりの分量があったということもそうだが、内容もぎっしりと詰まっていた。ちょうど読んでいるときに国会で憲法改正の議論がされていたことや周りの人達の話題も当てはまって、読んでは一時休みという感じであった。

 前半では戦後の国内の様子が詳細にまとめられている。日本人の心理的な部分から社会状況まで、何も知らない者にも当時のことが理解できるのではないかと思える。貴重な写真も見られる。ここから戦後日本の発展が始まっていくことになるのだが、ふと考えてみると現代の社会状況が何だか重なって見えるような気がする。戦後の数年間の物が無い時代に餓死者が以上に多かったということが、いま物は溢れている筈なのに生活困窮者が多く発生していることに妙に似ているような気がするのだ。敗北感に包まれて殺伐とした時代と現代は同じ時代になっているような気が。

 後半では憲法のつくられていく過程が書かれているとともに、戦犯とされる人達の裁判の様子がわかる。それぞれの立場からの思惑がかなり詳しく調べられている。写真もよく撮影されていたものだと感心する。戦後の日本の敗北感から経済的な発展を得るまでの道筋が納得できる。全体を通じてよくこれだけの内容を突き放したように冷静に語れるものだと思ったが、それはタイトルに示されているような気持からなのだろう。最後には憲法九条のことも書かれている。今憲法改正のことが話題に上がっているが、そこには戦争の敗北から戦争の放棄という戦後の日本の外交上の姿勢が入っている。努めて冷静に考えなくてはならないと思う。「敗北を抱きしめて」ジョン・ダワー(岩波書店)

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2016年

5月

12日

優しさに触れたい

 漫画原作者であり時代小説を書く女性作家だが、この人の原作作品を読んだことがない。時代小説が面白いからと言われて名前だけは覚えていたが本は読んだことがない。名前を記憶していてこの本を買ったのだが読むまでにかなり時間がかかってしまった。知らない作家であると同時に何となく気が進まないという感じだったからだ。そして意を決し読み終えた。読んで面白かったかと言うと実はそれほどではなかった。本の帯に書かれているように初のエッセイ集である。それぞれが短くて読みやすい。これが漫画雑誌に四年半も続いた理由の一つかも知れない。もうひとつの理由は人柄が表出するやさしい文章だろうか。それは「長いあとがき~高田郁のできるまで」を読むと実感する。自分の作家としての人生をけなげで強かにこんな風にさらっと紹介できる人はそういないだろう。でも私は時代小説の方は多分読まないと思う。「晴れときどき涙雨」高田郁(集英社)

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2016年

5月

07日

捏造

 本は新刊で買っておかないと書店の棚からすぐに無くなってしまう。あとは古本屋で探すかネットで検索するしかない。この本もそう思って買っておいたものだが、今はどこでも安く買うことが出来るようだ。事実先日も古本チェーン店で見かけた。買ってはいたのだがマスコミ報道が多く、内容も知ってしまったので読まずに置いていた。そのうちにもう読まなくてもいいかと思い処分しようとしたが、その前に読んでみようと思い直した。 一年前のことなのに妙に懐かしい感じで事件を振り返るように読んだ。誰もが知っているだろうと思うSTAP細胞発見の顛末である。この報道の前にはiPS細胞の発見が大々的に報道された。日本の科学力はすごいと思いながら、STAP細胞の可能性はかなり展望があるのではないかと報道からは期待した。それが二カ月もしたらまるでスキャンダル事件のように伝えられるようになり、割烹着を着た女性研究者は犯罪者のようになってしまった。そして妙に懐かしいと感じるのは日々マスコミの報道が色々なことを教えてくれるからかもしれない。そう言えばオリンピックのエンブレム報道も今では懐かしい。

 

 

著者は毎日新聞の記者で理科学系の同様の本を出している。あとがきを見ると物理学専攻とあり、そのせいか内容も専門的な説明も多く記されている。素人には詳しいことはわからないが、テレビで図解を使って説明されていたので何となく当時の様子が蘇ってくる。かなり取材を進めていたようだが当事者から発表は抑えられていた部分があり、それらを含めて経過がわかるようになっている。だが結局報道以上の真実が出てくる訳ではないので事件のまとめ的な内容である。それでもここまでは必要なことだと思う。ところが最近当事者の科学者の本が出版されている。その本も古本チェーン店に何冊も並んでいた。やはりそれなりに売れて古本屋に売られたのだろう。ついでに読んでみようか。

 当時の感想だが、理化学研究所という組織の構造的な体質がよく見えたような気がした。科学分野のことなどわからないが、記者発表時の様子や研究者の扱いなどが秘密裡に進められ、事件化してからは逆に隠蔽策が講じられたように感じた。結局亡くなった人も出たのだが、科学研究の世界的な信用を傷つけたことなどを含め、組織を守ろうとする姿勢は変わらなかったように思う。同様のケースは世界的にもあるようでこの本に中にもそれは紹介されている。私などが知りたいと思うのは、本当はどういうことだったのかということだけなので、組織の中のことなどどうでもいい。STAP細胞が何だったのかを説明して貰えれば良かっただけで、犯罪者を必要とはしていなかったのだ。不正の内容を語るよりも、安易にすごい発見を捏造する組織を見直して貰いたいと思う。「捏造の科学者」須田桃子(文芸春秋)

 

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2016年

5月

04日

情報の海に溺れない

 不忍ブックストリートは新しい店が出来てますます面白い街になっているようだ。5月の連休が店休日と重なっているので、そこで行われた一箱古本市に初めて出かけてみた。あいにくと天気が良くてものすごい人で賑わっており、歩くのにも苦労する状態だった。これほど混んでいるとは思わなかった。おまけに暑いので人出を避けて路地を抜けようとあちこち歩いていたからすっかり疲れてしまった。皆さん手にブックストリートの地図を持っており、スタンプラリーもやっているようだった。

 まず以前にも行ったことのある古書店に寄ると、ここも店内が人でいっぱいですれ違うのも大変な状態だ。本を買い地図を貰って出る。路地に入って地図を見るがどこでやっているのかよくわからないので適当に歩いてみた。何となく人が群がっている所に段ボールに本を入れた店が出ており、お客さんは覗きこむこともなく周りに立っている。私は目が悪いので近づいて覗きこむしかないのだが、けっこう突っ立っている人が邪魔になるのでさっと終わりにするしかない。でも結局どこの箱もあまり欲しい本は無かったというのが感想で、雰囲気を楽しめばいいのかなと思う。

 知っている古書店に入ってもやはり人が多くてゆっくりと本を選んでいる余裕はない。そんな状態なので調べてきていた新しくオープンしたという店を見に行くことにした。日暮里から、谷中、千駄木、根津、上野まで、休日に観光地を歩くのは疲れるだけだ。と言うことで肝心の本はほとんど買っていない。

 いくつか感じたことがある。これは当然予想できたことであるが若い人が多い。そしてあまり本は買わないようである。お喋りを楽しみ、色々な人との出会いを楽しんでいるのかもしれない。ここの所、新しく出来た店を見に行っているが、やはり若い人が多く見られるのが特徴的である。お洒落な店づくりで本だけではなく雑貨を置いたりしている。ただ気になることが一つある。今はネットで色々な情報がすぐに入手できる。そのせいなのかどうかどこの店も同じような本が並んでいるような気がする。なんでこんな本を置いているんだろうと思う本もあるし、この本がこの値段なのかと疑問を感じることもある。もともと本の価値は自分にはよくわからない部分もあるが、商売でやっているとこういう本が売れるのかと感心するばかりである。

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